小説 昼下がり 第五話 『晩秋の夕暮れ。其の二』



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代表者:木山 利男


 「お母さん! 私も飲んでいい? 十八
才だけどー」
 「いいわよ。昔はね、十八才ではすで
に、子供の二〜三人はいたわよ。ねえ、
山田さん」
 「そうだね。産めよ増やせよの時代だ
ったからね。ロバートは許すかい?」
 教授にしても教職者である以上、倫理
に反することに、明確な答えは見出せな
い。君ちゃんとて同じ。
 ロバートにその命題は委ねられた。
 「本来、プロテスタントでは、酒は禁
止されているが、私は飲みます。カトリ
ック、正教、プロテスタントとて、イエ
スのミサなどでは年齢問わず、葡萄酒
(ぶどうしゅ)は飲んでいます。だから許し
ます。ねえ、妙ちゃん!」
 ロバートの青い目が輝いた。
 「わぁ、うれしい! 飲むわ」
 妙子ははしゃいだ。
 「妙子! あんた、たまに飲んでんじゃ
ない。友達と飲み会なんて云って。でも
深酒はしないでね。強くないんだからー」
 秋子は愛娘がよほど可愛いのか、微笑
を絶やさなかった。
 妙子はビールをチビリチビリ。
 「よし、妙ちゃん、グィっといこう!」

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 透も妙子と居るのがよほど嬉しいのか、
酒のピッチが上がった。
 昼下がりの銀座での揉め事で負った唇
の傷がウィスキーで染みた。
      (二十七)
 半時〔一時間〕が過ぎた頃だった。
 『ドタン!』という大きな音がした。
 飲みすぎたのか突然、妙子が床に倒れ
た。
 「まあ、ごめんなさい。妙子を奥の部
屋に寝かせてくるわ。みんなゆっくり飲
んでいてー」
 秋子は妙子を抱こうとするが、抱き上
げられない。十八才の身体は、女の秋子
にとっては重い。
 「亭主が居たら……ね、透。運ぶのを
手伝って頂戴。あんた、いずれ妙子の亭
主になるんでしょう。
 妙子がどういうかは解らないけどね」
 「え、え!俺がー?」
 透は酔いも手伝ってか、キョトンとし
た顔をした。
 「それはいい!」。ロバートが手を叩
いて喜んだ。
 「透君、頑張りたまえ。神も祝福する
よ。God bless you
〔神の御加護を〕」―。

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 若干、発音に難があるが、ほぼ完璧に
日本語をこなす。
 啓一は、ロバートの持つ寛容と優しさ
に、いつもながら共感を覚えていた。
 厚手の浴衣に、ちゃんちゃんこを羽織
ったロバートの格好は、お世辞にも似合
っているとは思わないが、そのアンバラ
ンスが周りを和ませていた。
 秋子と透は、妙子を奥の部屋に寝かせ
つけた。
 教授も飲みすぎたのか、コックリと船
を漕(こ)いでいる。
 君ちゃんも酔いが多少、回ったらしい。
普段のおしとやかさは何処へー。雄弁に
なった。
 「ちょっと訊きたいんだけど、啓ちゃ
んとロバート。あなたたち二人、独身で
すよね。私もだけどー。どうして? だ
って、容姿も悪くないし、むしろ、平均
点以上だわ」
 君ちゃんには若干、東北訛(なま)りが
感じられるが、結構長く東京に居たせい
か、違和感はない。
 「啓ちゃんは好きな人が居るの? ロ
バートは? まずロバートから聞かせて、
お願い!」。君ちゃんの眼が爛々
(らんらん)と輝いた。

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